2023.06.19
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「現代マネジメント研究」第7回 藤間金扇氏 講義
2023年度 中部学院大学・シティカレッジ関・各務原公開講座
第7回 「芸三代」
日本舞踊家、岐阜市芸術文化協会会長
藤間 金扇 氏
第7回「現代マネジメント研究」は6月19日、日本舞踊家で岐阜市芸術文化協会会長を務める藤間金扇氏を招いて開かれた。学生と一般市民ら約120人が参加し、藤間氏の語る古典芸能と創作の魅力に耳を傾けた。
藤間氏は日本舞踊の藤間流師範として活躍し、平成23年には母親の故藤間金扇氏を継いで二代目金扇を襲名。新型コロナ禍で舞踊の練習や公演も制限される中、昨年6月には「初代藤間金扇十三回忌追善 第31回藤間金扇の夕べ」を岐阜市民会館で盛大に開催し、多くの日本舞踊ファンを魅了した。
和服姿で鈴の音とともに登場した藤間氏は始めに「寿式三番叟」の見事な踊りを披露。「寿式三番叟」について「祝いの席、おめでたい席でよく踊られます。今日はまず皆さんとの出会いを祝う意味で踊りました」と話し、近松門左衛門や井原西鶴など江戸時代の有名な浄瑠璃作家の名前を挙げた。
藤間氏は「浄瑠璃はユネスコの無形文化遺産にも指定されているが、私の祖母は浄瑠璃作家だった。母は宝塚歌劇団出身で結婚を機に日本舞踊を始め、初代藤間金扇を名乗った。今日は私の祖母と母、そして私の親子三代の話をしたい」と学生に語り掛けた。
祖母の鷲見房子氏は岐阜市の長良川鵜飼や木曽三川の治水事業「宝暦治水」を題材に浄瑠璃の新作を書いた。「宝暦治水」では江戸時代に幕府から木曽三川分流工事を命じられた薩摩藩士の苦難を描いた。鷲見氏は俳諧や茶道にも詳しく、岐阜県を代表する文化人として知られていた。
藤間氏は「皆さんと同じ大学生の頃、私は祖母から人生には三つの必要なものがあると教わった。それは財力、権力、実力。中でも財力、権力は生まれた時から決まっているかもしれないが、実力は努力を重ねれば手に入ると言われた。また祖母からは棒を折ってはいけないと教えられた。棒を折るとは途中であきらめること。最後まであきらめず、やり遂げることの大切さを教えてくれた」と振り返った。祖母は八十九歳で亡くなったが、晩年は高度経済成長と外国文化に浮かれる日本の姿を見て「日本人ほど自国の文化を大切にしない国民はいない」と憂えていたという。
藤間氏の母は宝塚歌劇団出身で、当時の岐阜市長(東前豊市長)の息子と結婚した。日本舞踊に打ち込み、初代金扇として舞踊の定期公演を主催。古典芸能だけでなく新作の制作者、演出家として才能を発揮した。藤間氏は「母とは性格がまるで違った。私は正確に踊ろうとするが、母は自由自在に踊る。母は芸の頂まで険しくとも近道で行こうとし、私は安全な道を行く。性格の違いはあったが、芸の世界ではベストマッチだった」と独特な表現で懐かしんだ。
その母が亡くなったのは「藤間金扇の夕べ」でフランスの作曲家モーリス・ラヴェルのバレエ曲「ボレロ」を上演する準備をしていた時のこと。自宅で倒れ、救急車を呼んだが助からなかった。藤間氏は母の遺志を継ぐ決心をし、約一年後の公演で「ボレロ」を題材にした創作劇を実現した。「亡くなった母の姿を踊りと朗読で舞台によみがえらせようと思い、できた時の喜びは大きかった。母の代わりに演出を手がけ、改めて創作の喜びを知った」と話す。
藤間氏は昨年から岐阜市芸術文化協会会長を務めている。同協会は邦楽、邦舞、洋楽、洋舞、演劇など個人五十七人、六十九団体、企業三十三社が参加する大所帯だ。来年秋に岐阜県で開催される国民文化祭に合わせ、同協会主催で戦国の武将・斎藤道三を描いた「ぎふ市民劇 道三」を上演する。初代金扇氏が平成18年に演出した創作オペラ「オリベ焼文様」では中部学院大学の学生も参加し、赤いさらしの布を振る焼き物のシーンを演じた。藤間氏は持参した「オリベ焼文様」のDVDを上映し、「ぜひ皆さんに出演をお願いしたい。赤いさらしの布と津軽三味線の演奏で迫力ある戦いを表現したい」と市民劇への協力を呼び掛けた。最後に藤間氏は「申し上げたいのは、先のことを心配するより、今を生きること。好きなことをいっぱい持ちなさい。自分が好きなことを持てば、人にも優しくできる。それは権力、財力、実力を持つより簡単なこと。文化は人と人をつなぐ。今を生き、好きなことを持つよう心がけてほしい」と学生に熱いエールを送った。
(文責 碓井 洋 写真 林 賢一・渡辺 高也)